◆悪霊退治(ボス)
夜。
お彩さんの作った夕飯を頂いてから、目的地へ到着。
古ぼけてるけど、豪邸やなぁ。
「鍵は預かっとるよ、入ろか」
堂々と入っていくナガターニャさんの後ろから、ちょっと腰の引けてるオレに寄り添うお彩さんという隊列(?)で進む。
《侵入者‥‥帰れ‥‥》
「きゃっ」
姿を見せない、恐ろしい声に、お彩さんがオレにしがみつく。
「大丈夫、オレが守るよ」
カッコイイ台詞と姿勢がチグハグやけど。
「勝手に住み着いたんはオマエらじゃろが、成敗したる!」
数珠を手に、お経を唱えるナガターニャさん。
オレとは別の宗派やな。
《ぐああ、キサマ‥‥》
二体の霊体がオレの目にも見えるようになる。
人の形‥‥とは、ちょい違う。
自然と恐怖感が溢れてくるような姿。
オレは称号を【卓球ルーキー(半年)】を装備。
霊能者は【悪霊退散】のままで、効果は、悪霊との戦闘時、全能力Lv+2。
卓球台が出現。
ラケットを構えると敵にサーブ権。
《ルーキーだと、取り殺してくれる‥‥》
《そちらの娘も美味そうだ‥‥》
「お彩さんには指一本触れさせへんで!」
左手で遮るように、お彩さんを庇う。
図鑑に、悪霊は他の霊体エネルギーを吸収して強くなると書いてあったな。
*
あっさり、ラブゲームで敗北し、カラオケが出現する。
先攻はオレ達。
ナガターニャさんの選曲は[一生の尊敬・女編]!?
「別に何もかもが理想やないけど、ずっと一緒にいたいんよ♪」
予想外やけど、綺麗な歌声で熱唱‥‥82点!
「女性は皆レディーですね」
「わたくしも歌詞に感動しましたわ」
二人で拍手。
「残念ながら主人には先立たれてしまったがのぅ‥‥お主が彼女連れでなければ口説いておったかもしれんの」
「それは光栄です」
となると、オレも[一生の尊敬]を歌うか。
早口な歌詞もあるし【神速のノリ】を装備。
「この歌をお彩さんに贈る‥‥ええ加減そうなオレやけど、尊敬しあえるキミと共に成長したいねん♪」
お彩さんを正面にみつめて熱唱‥‥90点!
合計172点なら、安全圏やろ。
歌っている間、お彩さんは赤面したり悶たりと可愛らしい反応を見せてくれた。
「お主も‥‥惚れとるのか? ゆめゆめ忘れるでないぞ?」
ナガターニャさんの耳打ち。
「ノリ様、わたくし悶え死ぬかと思いましたわ!」
お彩さんはオレの胸をポカポカと叩いている‥‥可愛い。
つか、もう死んでるのが残念でならない。
そんなやりとりをしてる間に敵が演歌デュエットを歌い終わる。
点数は85点‥‥あぶなっ、ギリギリやんけ。
《最近の若者はカラオケマナーがなっとらん‥‥》
《この屈辱‥‥麻雀で晴らしてくれよう》
「これは失礼‥‥」
紳士道を志すオレとしたことが。
*
さて、自動雀卓が出現。
オレが称号を【ドラゴンスレイヤー】にした途端、驚愕する敵。
「フッ、一挙手一投足で手牌が透けて見えてくるで‥‥」
東二局の親。
三向聴の国士手か、ここは迷彩かけて、唯一の対子の西を一巡目に切るか。
まあ聴牌(テンパイ)する前に何か重なるやろ。
五巡目で一向聴の対子無しから中が重なって、1枚出てる北待ち。
元々テンパイを隠すポーカーフェイスは苦手。
いっそ、全開でテンパイ気配を出そう。
リーチをかけてもいいけど、少し焦(じ)らそうかな。
他からリーチかかった時に、当たりそうな牌と中を天秤にかけられるしな。
萬子は一枚も切ってない。
西の後は筒子切りで、今、索子を出した所。
《【ドラゴンスレイヤー】と言っても、そんなものか。高手の闇テンパイが見え見えよ‥‥》
南家のスペクターが安牌の西を切る。
西家のナガターニャさんも西を切る。
ここまで順調すぎると笑える。
五巡目の国士テンパイでオレを含めて西が三枚切れ。
と言っても、アガれなければ何の意味もないが。
北家のファントムが暫し悩んでから北切り。
「ロン、国士無双!」
親の役満48000点、ドボン終了。
悪霊は成仏する事も出来ず、消滅した。
ひらひらと千円札が2枚落ちてくる。
「さすが【ドラゴンスレイヤー】じゃのう、助かったわい。これが報酬じゃ。悪霊の千円もつけとるからの」
「有り難く頂きます」
一応、封筒の中身を確認。
「わたくし、まーじゃんは、よく分かりませんが、ノリ様は凄いのをアガられてのですわね」
「うん、一番点数の高い役満だからね」
まあ、ダブル役満とかトリプル役満なんて奇跡的なのもあるけど。
「素晴らしいですわ☆」
お彩さんが抱きついてきた。
「見せつけてくれるのぅ、夜道には気を付けなされよ」
一人去ろうとするナガターニャさん。
「ああ、お送りしますよ。夜道に女性の独り歩きは危険ですからね」
「ほぅ、一端(いっぱし)の紳士じゃのぅ。ではお言葉に甘えようかの」
ナガターニャさんを家まで送り届けてから、二人乗りで帰宅。
さすがに報告は明日でいいやろ。
*
《Piko~N》
「ノリに【霊視の紳士】の称号が付与されました」
「おろ? 称号ついた」
「まあ、どんな称号ですの?」
お彩さんにも分かるように称号を【霊視の紳士】にする。
効果は、霊体が見え、敵対的な場合は全能力Lv+1、友好的な場合は成仏させるための行動にLv+5。
「霊体に特化した称号やな。お彩さんを成仏させるためにも有効な称号やと思う」
「わたくし、ノリ様を置いて成仏など致しませんわ。それに、わたくしは元気ですのよ?」
あー、そうやった、お彩さんには幽霊の自覚無いんやった。
そして、何だか胸がチクッとした。
*
残りの三件の依頼も無事こなし、生活費以上に少し貯金できるようになった。
お彩さんを養ってる事もあって、食費は2倍‥‥2.5倍くらいかな。
栄養バランスを考えて、お彩さんが尽くしてくれるからな。