雪天使~お前に捧ぐカノン~
第3章 act,2:出会い
「……で、ビンゴか? 今そのロード、だっけか? がそうお前を呼んだ気がしたからよ」
「あぁ。ビンゴよ。あたいの名前は……カノン。十三歳よ」
そう言って両手を腰の後ろに組み振り返った赤毛の少女は、フワリと笑った。漸く初めて彼女が見せた穏やかそうなその笑顔に、少年は思わずドキリとする。
「……何だよ……今すっげえ幸せそうじゃね?」
つい赤くなる自分の顔をはぐらかす様にそっぽ向きつつ、そう口にするシャルギエル。
「姉ちゃんはさ、自分の名前が大好きなんだよな!」
カノンに確認するロードに、ニコリと笑いながら彼女はその子に肯いて見せる。
「ふーん……“カノン”がか……」
シャルギエルが不思議そうに呟くと、再び彼女は擽ったそうに微笑んで見せた。
「……!!」
その思いの他愛くるしげな微笑みに、つい言葉を失ったシャルギエルは、この幼い少女に見とれた。
それでも彼のセレブ世界と比較すれば、このスラムで生きている以上全体的に、彼女の容姿がボサついて汚らしいことは否めない。
今までクラスメイトにも周囲にもいくらでも磨き上げられた女として完成度の高い、美の集合体のモデル並みのレディーは当たり前の様にいるのが生活の常だったが、そんなあからさまに“作られた”存在はいつしか彼にとってはただ景色に溶け込んでしまった“物”となり、異性というよりかは風景の一部でしかなくなっていた。
まさかこんなみすぼらしく汚れた赤毛の少女に、異性としてときめきを知らされる事になろうとは、本人にとっても予想外だった。だがその少女が見せた笑みがとても自然で、純粋に清らかな何の計算もされていない美しさに見えたのだ。
周囲の粗末な風景から浮き彫りにされた、愛らしさとでも言うべきか。
「でも今日は雪が降っていい日だよ」
ふと口にしたカノンの言葉に我に返ったシャルギエルは、まさかと脳裏に過ぎった思いを払い除けると、その言葉に応じた。
「雪!? 余計寒いだけじゃねぇか。まだ冬でもクリスマスでもあるまいし」
「でももうすぐハロウィンだぜ」
そう言ったロードに対して、少し呆れながらシャルギエルは答える。
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