雪天使~お前に捧ぐカノン~
第4章 act,3:オーファン
「いって! 俺がいつ馬鹿にしたよ!? ただ初めての様相にびっくりしてるだけじゃねぇか!」
「それが馬鹿にしてんだよ。こんな暮らし……ここらじゃ当たり前だ」
むしろ彼等はまだマシな方だった。他の者達はこうして生活を営める場所すらなく、夜は路上や乾いた下水道で眠る子供達もいる。
この町で迂闊にそういった私生活にいちいち驚いて見せたりなんかしては、あっと言う間に差別と見なされて、追い剥ぎだのといった酷い目に合わされてしまう。
今にしたってシャルギエルの着ている服装はここらの人間にして見れば立派な代物なのだ。
「これからはそのつもりで気をつけろ」
ロードはいつまでもドアの前に突っ立っているシャルギエルの足元にある、ドアの側に積み重ねている薪を片腕に抱え込みながら言う。そしてジロリと彼を一睨みして、天井の片隅が崩れている方へとそれらを運んで行った。
その崩れた天井の真下には、ドラム缶が置いてあった。きっとここまで来るまでに通りで見てきたのと同様に、その中で火を焚いて暖をとるのだろう。
ドラム缶に薪を放り込み火を付けようとしているロードを見ながら、少し己の軽率さに傲慢な筈のシャルギエルが珍しく反省を覚える。
余りにも格差の激しい、自分の豪華な環境とこのスラムでの彼にとっては有り得ない様な貧困っぷりに、流石の彼も同情せざるを得なかったらしい。
「……そうかよ……つか、悪いけど俺にとっちゃあここの何もかもが珍しすぎて、理解出来ねえ事だらけだ。それでも下手に質問や疑問も口に出来ねえのか?」
少し拗ね気味に、ボソボソと遠慮がちに訊ねてみる。
するとシャルギエルとロードのやりとりを度外視して、アルミ作りらしきカップ等を取り出し水回りで何やらちょこちょこ動いていたカノンは、その手を休めずにこちらへ背を向けたままサラリと言った。
「ふん……仕方ないよロード。逆にあたいらがこの町で先に出会った相手なだけでも、こいつも寧ろ運が良かった方さ。世間知らずな馬鹿を相手にしているつもりで、あたいらだけでも質問ぐらい許して色々このスラムの事を教えてやんな」
「こ、こいつ? バカ!?」
流石に同情を覚えて二人を気遣ったシャルギエルでも、年下のカノンのクールな言葉に我に返って、眉間に皺を寄せながら彼女の後ろ姿を凝視する。
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