雪天使~お前に捧ぐカノン~
第5章 act,4:アモーラル
たまには一瞬でも喜びや幸せとかってのを、与えてやったってバチは当たるまい。俺はともかく、こいつらは生まれた時からずっと頑張って今まで生きてきたんじゃねぇか。俺は別に神を気取る気はねえが、束の間の贅沢をこいつらに与えて何が悪い。人生時には褒美も必要ってもんだ。特に子供の内にはな。
「そういや夕飯……生憎小麦粉とジャガイモしかないんだ。口に合わないのは承知の上だけど、今からこれらでパンもどきと、蒸し芋を作ってやるから待ってな。何も食わないよか……」
簡易キッチンの棚を弄りながら言うカノンの言葉を遮る様に、シャルギエルは清々しげな声で口を挟んだ。
「この町店ぐらいあんだろう? 何か買ってきてやる」
カノンは手を止めて振り返ると、何故か動揺した表情で言った。
「な、何言ってんだい。あんたは今ここじゃ客だよ! 客に食材もらうなんて事出来ないよ」
「何だよ。いいじゃねぇか俺がそうしてぇんだから。遠慮すんな! 泊めてもらう恩義と思え。それと、俺らが知り合った記念としても、な」
「そ、そんな事……してもらうのは初めてだ……。大概この辺りの常識じゃ何かしてもらうと、その見返りを莫大に要求されるから……。あ、あたいは本当に今してやれる以外何も出来ないから、もしその莫大な見返りを期待してるつもりなら……」
戸惑いつつ表情を蒼褪め、カノンは声を震わせながら言う。
しまった。シャルギエルは思った。
良かれと思って言った事だったが、どうやらギブ&テイクに関して過去の出来事か、この町のルールでか、何かトラウマ的な嫌な経験があったのか。
そういう何らかの矛盾的常識がここではまるで、雛鳥の摺りこみの如く植え付けられているのかも知れない。
シャルギエルはここに来てやっと初めて推測、予測的な思考を働かせる事が出来た。
「カノン……」
よっぽど苦労しているのか。俺が簡単に思いつかない程。自分では、ただ当たり前の事を当たり前に何の期待も無しに言っただけの事で、彼女がこんなに動揺するなんて。
「阿呆が。見返りなんざ期待しちゃいねぇよ。俺はただその……お前やロードを喜ばせたくて言っただけっつーか……笑え!」
シャルギエルはガシッとカノンの頭を掴んで、強引に自分を見上げさせた。
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