雪天使~お前に捧ぐカノン~
第5章 act,4:アモーラル
「お、おい。あんまり懐くな。歩き難いだろう」
「あたいにくっ付かれるの、嫌かい?」
「そ、そうじゃねぇけど……! ガキのお守りは慣れてねえ」
改めて照れる自分をはぐらかす様に悪態を吐く。
カノンはもう片手でシャルギエルから借りて着ているコートの裾を、両サイド掴んで持ち上げて歩く。それでも後方は積もった雪の上を引き摺って、歩く分だけその跡が帯状に残る。
「たかが二つ違いでそこまでガキ扱いする事ないじゃないか。それにあたい……結構あんたが気に入ったし」
「え?」
「シャルギエルが好きなの」
「好……!?」
思わぬ彼女からの告白に、シャルギエルの心は激しく高鳴る。
「世の中ミカエル、ガブリエル、ラファエルと天使様の名前を持つ人って幾らでもいるけど、雪の天使様の名を選んだあんたの親って、結構ロマンチックな人なのね。そんなマイナーな天使様の名を知ってるなんて。私も初めてその名の天使様の存在知った時、素敵だなって思ったんだ。雪を司るって……綺麗じゃない」
……何だ。天使の事か。少しテンションが下がるシャルギエル。そもそもまだ出会って数時間だ。彼のカノンに対しての気持ちは一方的な……意識過剰らしい。彼の潜在意識からの返答によると。
本来こういう感情を“一目惚れ”というんだろうが、彼は強がって内心で否定を決め込んでいるみたいだ。
「カノンも、だよな」
雪降る道の先をぼんやり目で眺めて歩きながら、そっと彼は口を開く。
「パッヘルベルのカノンは不思議にも、テンポ次第で悲しくも楽しくも力強くも聴こえる。だからなのか、数あるカノン曲の中でもパッヘルベルの方は数多くのファンを持ち、世界中のほとんどから知名度も高い。ま、お前の名の意味を言い当てたのが俺が初めてと言う辺り、ここいらの奴等が無知なのか、無関心みてぇだが」
「そうね……あたい、別にいいんだ」
カノンはシャルギエルに組んでいる腕にギュッと力を加える。
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