雪天使~お前に捧ぐカノン~
第6章 act,5:スパーク ~Rとエリート~
しかしそのやり方は酷いものだった。ほとんど恩着せがましい脅迫みたいなものとも言えた。
それでも一度辛い路上生活から、こうして住まいのあるマシな生活を覚えると、また昔みたいな辛い生活に戻りたくなくなるのが、人間というものなのだ。
ではそこまでRに怯えてまで、今の生活に甘んじるのはもう嫌だからと、逆らって一度入ったグループ抜けたりした後の方が、グループに入る前より始末が悪い。
陰湿な“ウサギ狩り”や脅しの毎日で、とてもこの町で生きていけなくなる。初めから知っていればカノン達もそんな奴のグループに入る気はなかった。
でも当時甘い言葉で誘われて、しかもまだ無知な子供であれば尚更だ。おかげで今では、すっかりこのザマだった。
食事の準備をしながら、買ってきた品物も片付けていたカノン。今度はロードが口を開く。
「ちなみにRが鞭ならエリートは飴。でも本当に恐ろしいのは実はエリートの方だって言われてる。Rの方は普段からいつも通りの暴力的。だけどエリートは普段すごく優しいオーラを出してるけど、いざとなると暴力的なRより、やる事が残虐非道極まりなかったりして、その後何事もなかった様に平然とニコニコしている。だから突然残忍になるエリートより、常時威嚇的なRの方が単純で分かりやすい分まだ無邪気に見えて、あんな性格でもエリートよりかはまだマシな方さ」
ギャングに昇格した今では、Rが戦闘員(ウォリアー)でエリートがハスラーを務めている。
ウォリアーは上から受けた指令に従って殺しや強盗、暴力といった非法な肉体労働を主に活躍する。ハスラーは麻薬の売人や人身売買、売春などの元締めといった非法なビジネス関連を主に活躍する。
ロードの話を聞いてシャルギエルはピンと来た。昼間入ったあのカジノでエリートはウエイターをしていたが、エリートはあのカジノ店でもハスラー活動の拠点の一つにしているのか。
「なるほど。乱暴で荒くれ者のR〈ラフ〉に、普段は良い人ぶって大人に聞き分けが良い、裏表を上手く使い分ける優秀なエリート、ね……」
シャルギエルは今後の参考にするかの様に、そっと下唇を親指で撫でた。
「な? 性格さえ分かりゃあ、奴等の名前の意味も単純だろ」
ロードはカノンがテーブルに出揃えた食事に有り付きながら、あっけらかんと言った……。
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