借り物競走は、スタート地点からすぐの場所に置かれた箱の中から一枚の紙を取り、そこに書かれたモノを応援席や保護者席、
グラウンド内の何処かから借りてきてゴールするという内容だった。
そして時々、紙の中には借りてくるモノだけでなく、保護者席にいる保護者一人と手を繋ぎながらゴールするといったような指示もあり、
それがこの種目を毎年大いに盛り上がらせていた。
スタートのピストルが打ち鳴らされると、最初の組の生徒達が一斉にグラウンド内を走りだした。
そして、箱の中から紙を取り出し、皆それぞれの借りモノを求めて保護者席や応援席へと散らばっていった。
ある男子生徒は保護者席に走り、誰かから借りたスカーフを首に巻いてゴールに走っていた。
また別の男子生徒は応援席にいるクラスメートを背負ってゴールに走った。
皆、それらの光景を見ながら爆笑したり、応援したりして借り物競走は一組目から大きく盛り上がり始めた。
そして、二組目の生徒達がピストルの合図と共に一斉にスタートすると、玲奈のクラスの女子生徒が箱から取り出した紙を見るや否や、
応援席の最前列に座る玲奈の方を目がけて勢い良く走って来たのだった。
「秋山先生、先生の着ているTシャツを貸して下さい!」
そう言って彼女が示した紙には『黄色いもの』と書かれてあり、玲奈は今まさに黄色のTシャツを着ていたのだ。
「えっ・・・」
玲奈は思わず辺りを見渡した。
しかし、生徒達は皆、学校指定の白地に襟元を袖に緑色のラインが入ったTシャツと緑色の短パンという体操服姿で、
見た所誰も黄色いものを身に付けている者はいなかった。
そして保護者席をざっと見渡しても、黄色いものはなかなか見つけられなかった。