のこぎりぎゃし
< 2023年11月 > | ||||||
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明日、大学時代に入っていた落語研究会の50周年パーティが、ある。
前日の今日、私の2学年下の、ひとりの後輩の女の子が、8月30日に何かの理由で亡くなっていた、と聞かされた。
私が童貞を捨てたのは25歳で、場所は横浜のラブホテル。当時、乗っていたシビックで横浜にデートに出かけ、どうも彼女は初のお泊まりを考えていたらしく、ゆうちゃん、今夜どっか泊まっていく? と私に言った。
そして、ラブホテルを後にして、車を運転すると、ラジオではサザンオールスターズの『LOVE AFFAIR〜秘密のデート』が流れていて、歌詞にある、マリンルージュで愛されて、大黒埠頭で虹を見て、シーガーディアンで酔わされて、まだ離れたくない、と横浜近辺の言葉が出てくるのは、出来過ぎのように思えた。
「ゆうちゃんが初めてだって言ってたの、信じられなかったけど、ほんとだったんだね」
「まぁな」
「だって、誰々先輩と付き合ってたじゃん」
「付き合ってたけど、してないんだよ」
付き合い始めたのは、私は会社勤めを初めて2年目だったか、彼女は大学4年だったか。
後輩たちの飲み会に顔を出すと、それまで、太っていた印象だった彼女は、何があったのかと思うほど、ちょいぽっちゃり、に痩せていて、私は一目惚れした。
「あのさ、2次会行かずに、このまま俺とどっか行こう」と言うと、彼女はそれまで単なるサークルの先輩だった俺の顔を見て、黙って、ついてきた。それで、付き合い始めた。
別れたのは、彼女が社会人になり、次第に帰りが遅くなってきたことに、「ほかの男と飲み歩いているんじゃないか」と疑心暗鬼に駆られ、彼女は、「私のことが信用できないなら、いいよ」と、喧嘩が積み重なったのが理由だった。
その数年後、彼女は結婚した。それから数回、何かの集まりのときに顔を合わせ、短い会話をした。「元気にやってる?」「やってるよ」
彼女の同期が、明日のパーティに参加するのか、何度もLINEをしたのだが、返事がなかったので、自宅に電話をかけたという。
その際に、高校生になった娘が、「母は8月30日に亡くなりました」と告げたのだという。
私は「その話」を4時間前に聞いたが、おそらく、今夜、あと数時間後に電気を消して、ベッドに入り、目を瞑ったら、彼女との出会いからのすべてを思い出すだろう。そして、死んだことが本当に、信じられないだろう。そして、人は死ぬのだ、という事実を、人生で初めて、知るのだろう。