MaraSon Part2
第1章 1
大樹(ひろき)君を帰した僕は、急に激しい疲労を覚えて、後片づけも何もかも後回しにして風呂の蓋をしてお湯張りボタンを押し、こたつに突っ伏してお湯が満ちるのを待った。十五分くらいは湯につかって、何とか気分を切り替えた。変な時間に昼寝をしたら、明日からの仕事に差し支える。それに今日中にやっておくべきこともある。
僕は部屋を片づけ、手早く掃除をして、「行為」の痕跡を全て消した。汚れたシーツを洗濯機に放り込んだ。あまり家に人は呼ばないが、こういうのはさっさと片づけた方がいい。気分的に日常に戻れなくなる。「道具」の類もクローゼットの奥にちゃんとしまった。予定通りならまた来週には、活躍することになるわけだけど。
ご飯を炊いて、作り置きのカレーを温めてかけ、昼飯にした。朝飯抜きになってしまった。
大樹君も朝飯抜きだな。今頃どうしているだろう。「気持ちの切り替え」どころじゃないだろうな。明日は普通に学校に行けるんだろうか。かなりひどいことをしたと思う。でも僕には後悔はない。それどころか満たされた気持ちでいっぱいだ。その一方で不安になった。
ずいぶんしっかりした子には思えたが、まだ十一歳。親に対して、今日の、数時間前のショックを隠し切れるだろうか。何があったのかと迫られて、口を閉ざし続けることができるだろうか。僕の「保険」であるビデオは、大人なら百パーセント有効だが、幼児なら全く無効だ。十一歳の子どもには、どうだろう。微妙だ……。
しかし今さら考えても仕方がない。僕はできる限りのことをするだけだ。あれだけのことをやったんだ。破滅が待っているなら、それは受け入れるしかないし、得心して受け入れることができると僕は思う。
1
NIGHT
LOUNGE5060