MaraSon Part2
第5章 4-1
父親はまだぐったりとして首を折り、ベッドに腰掛けていた。
「お父さん、そろそろ上脱いでもらえます? ぐずぐずしていると大樹君が風邪をひいてしまう」
父親は僕の顔を死んだ目で見て、何か言いたそうに口を動かしたが、結局その口をつぐみ、上を脱ぎ始めた。
すごい肉体だ。褐色の肌に包まれたその大きな体躯の、肩の筋肉は盛り上がり、胸筋はせり出し、腹筋はきれいに割れて、無駄な脂肪はごく少ない。わずかに腰のあたりにたるみがあるくらいだ。ある時期までは息子と一緒に毎日ジョギングしていたわけだけど、どちらかと言うと短距離型、たくさん筋肉のついた肉体だった。ただ人工的なにおいはある。筋トレとプロテイン。かつては青年実業家で成功者だった彼なら、スポーツジムにでも通うのはありがちなライフスタイルだ。たぶん今は、仕事の一つが肉体労働系なんだろうな。
「ちょっと爪、見せて下さい。ああ、だめですね。これで爪切って下さい。可能な限り深め。あとヤスリもかけて滑らかに」
僕は父親に爪切りを渡して指示した。反応が辛気くさい。戸惑っている。丁寧に爪を手入れしておかないと、息子さんが痛い思いをすることになるんだよ。僕は彼のとろい爪切りを待った。
「じゃあこちらへ。このローションとこれを持ってですね、僕が引っ込んだらここにローションを塗って……」
とても面倒くさい。ごついからだでおどおどして、全然動かないし返事もないし。僕はお父さんに耳打ちするように、でも大樹君にも聞こえるように言った。
「さっきも警告しましたがお父さんがやらないなら僕が交代しますよ。その場合痛がっても泣いてもやめませんよ? もう後戻りできないのは、わかってるでしょう?」
お父さんはやっと二度うなずいてくれた。大樹君は首をねじり、びくびくして僕とお父さんの顔に交互に視線を走らせている。
僕は今度こそ内緒話の形で、丁寧にシナリオを説明した。展開が読めない方が大樹君は不安になる。父親は時々表情をひきつらせながらも、僕の話にいちいちうなずいていた。
「では頼みますよ。あまりつまったら僕が交代します。いいですね」
42
NIGHT
LOUNGE5060